日本食を食べたい。
そんなリクエストをもらった。とかく日本のコンテンツ自体は人気であるものの日本人自体がマイノリティ。
日本人が多い州ならまだしもそうではない州の人にとって、日本は「アジアにあるなんかもう色々なんかもう凄いなにか」の扱いである。以前アメリカ人はハンバーガーとピザばかり食べているんだろうと偏見を持っていました。「ハンバーガー作ろうぜ!」「ヒャッハー! やろうやろう、材料買ってくるー」を職場でやられたときは「合ってるやん」と思いました。
牛肉100%のひき肉に「ハンバーガー用のスパイス」をドサドサとかけ、簡単にこねて炭火でバーンと焼いて、パンズにそのパティとレタスと玉ねぎとトマトとケチャップとマヨネーズを挟んだものをダーンと出されたのですが、人生で一番美味しいハンバーガーでした。

その流れで「日本の家庭料理を食べたい」とみんなに言われて困惑したのですが、彼らは仕事上日本慣れしているものの日本の家庭料理をあまりご存知ない。普段から大変お世話になっているので断る選択肢もない。
「カレーライスはどうだい」
「ゴールデンカレーでたまにカレー作る。マジうまい」
「あれはおいしい。知ってる」
「カレーライスを知っているのなら、鍋はどうだい。あれは複数人で食べたら美味しいんだ」
「銀魂」
「ゴールデンカムイ」
「ゆるキャン」
「ワンパンマン」
「デュラララの外伝」
思ったより認知されていた。オタクの巣窟かここは。

すき焼きは「安全な日本のたまご」が無いと拒否されてしまう。
ロッキーで生卵をガバァと飲むシーンがあるけれど『アタマどうかしてる』のを表現しているので、「スタミナつけるのはいいことだ」という当時の私の感想はみんなのHAHAHA!!で臥されてしまった。
洋風鍋なら全員いけるかもと思ったので食塩入りの野菜ジュースをナントカして、トマト鍋にすることにした。材料も安い。そしてみんなを招待した。

「結構長い時間煮込むんだね」
「うん、キャベツは少ししんなりする方がいいんだ」
「こんなにキノコ食べたこと無い」
「野菜多いね……。これじゃ野菜鍋だ」
「スーパーヘルシー」

たんまりと鶏肉とウィンナーが入ってる。百歩譲ってヘルシーでもいいけどスーパーヘルシーのスーパーを取っていただきたい。だけど野菜だらけじゃんと言われてあからさまにションボリされて、あんまり反応はよくなかった。

「ほれ、熱いうちに食べなされ」
「山ほどの野菜と、ちっこい肉」
「おう、これはすごい野菜の量だ。肉が小皿の底に一個入ってる。他は野菜だ」
「すごいぞ、俺の人生の一食での野菜摂取量更新だ」

鍋用の小鉢で野菜摂取量の更新が出来るお前の人生がすごい。

「……?」
「………!?」
「……???」
「うまーーーーー」
「トマトだけの味じゃないしお肉の味でもないし、これ野菜?野菜?だけどキャベツとキノコとにんじんと…」
「うまーーーーーーーー」
「野菜が……拒否反応を起こさずヌルヌル体内に入る」
「……お代わり食います」
「熱いよ熱いよ美味しいよ熱いよ」
「………お代わり食います(三杯目)」
「うまーーーーい。野菜ばっかりなのに、野菜だからなのかもしれないけど、野菜で……。なんでもいいか旨いから」
「ヤバいの入ってない?」
「MSG(うま味調味料)も含めてなんも入れてなかったぞ、作り方見てたもん」
「………お代わり(四杯目)」
「ヤバいもん入ってないのか。だから、お前食い過ぎなんだよ俺らの分無くなる」
「うるせぇ、鍋は人生の縮図なんだよ」
「色々な味が層になって混ざっている気がする。秘密を教えろ日本人。楽になるぞ?」

味のことを説明するには私は門外漢なので「野菜をたくさん入れることで味がまろやかになるし、キノコを一緒に加熱することで旨味が出る。あとはお肉やウィンナーからも味は出てくるんだ。あとは調味料で軽く味を整えればいい」と言ったら、全員ポカーンとしていた。というのもアメリカは基本的にスープ文化ではなくソースやスパイス文化だ。山のような調味料やスパイスでさっと下味をつけた何かを焼いて、ソースをぶっかけるか絡めて食べることが多い。だから三角食べが出来ない人はおろか、丼ものは上の具材だけ食べてしまう人のほうが多い。ごはんと一緒に食べて味の濃さを調整する事がなかなか出来ない。ソースと調味料文化の彼らは、なにか凄い何かを私がぶちこんだと思っていたのだ。

「お肉が大きいわけじゃないし、味が無くなってカサカサになっているわけじゃないよ?」
「野菜もカサカサじゃないよ?」
「(スープ飲んでる)」
「元気玉システムが生まれた国は?」
「…Ah‼ そうか少しずつ味を……」
「ぷはー(全部飲んだ)」

一同納得。
納得するの早い。そしてドラゴンボールは便利すぎる。

「鍋料理って色んな種類あるの?」
「うん。今回はこちらでも簡単に手に入る物を用意した。魚介類ベースの物や余った野菜と肉でどうにかなる物もある。力士が食べている物もある」
「スープ自体は前から嫌いじゃなかった。だけどこんなに味が深いものを、しかもご家庭で食べることは無かったな」
「東京でラーメン食ったとき、また日本人やらかしやがったと思った。全部食ってヤバいもん食ったと思った。後悔はしていない」
「基本的にダシというスープ文化なんだよ」
「嘘だ! お好み焼きとうなぎ食ったときソースがバチクソ旨すぎたぞ。あれにヤバいもん入ってると言われても全然疑わないぞ、金なら頑張って出す」
「ソースにもダシの技術使うから」
「チートじゃねぇか」
「BANされたくなきゃチートと呼ぶな、次回呼ばんぞ。あとそんなゴツいレナはいない」
「はい、チートではありません」
「レナの気持ちやったんよ……」

シメを用意しようとしたら鍋の中は空で、スープまで全部無くなってて思わず真顔になった。そしてレシピはきっちりメモられた。
ヤバいものと彼らが言うのは半分冗談で半分本当だろう。香料や着色料や砂糖や塩を山のように入れられている加工食品が多いので「なんとかならんのか」と考えているのは、アメリカ人もそうらしい。だけど選択肢がなく代替品もあまり無い。ほどほどという物があまりない。だからバイナリで生きている人のように0か1のような反応になってしまうのだ。でもここでいうヤバいものは白い粉のことらしい。もちろんハッピーターンのアレではない。アレはハッピーヤミー(幸せのおいしさ)であって、ハッピーヤッキー(最高にまずい)ではないのだ。

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